やなせたかしの人生のターニングポイントにはライオンがいます。
1ぴき目は母親が再婚をするため、弟・千尋と一緒に預けられた伯父の家にあった石造りのライオン(現在は母校・後免野田小学校に移設。)
2ひき目は戦後、漫画家になるために上京して就職した日本橋三越のシンボルのライオン像。
3びき目は大人向けの漫画家として行き詰まり、絵本作家として初めて出版した絵本「やさしいライオン」に登場する、みなしごのライオン・ブルブル。
やなせは動物をモチーフとした作品をたくさん描いています。「チリンのすず」では復讐に燃える子ひつじ。「アリスのさくらんぼ」では、人間の欺瞞を暴くうさぎ。その他にも象やクマなど、あらゆる動物が描かれました。やなせ自身の肖像画ですら“うさぎ”なのです。
やなせには自身の気に入った創作物を発表媒体を変えて何度も描くという特徴があります。
3びきめの「やさしいライオン」もラジオドラマ、ショートストーリー、絵本、紙芝居、そしてアニメ映画とさまざまな方法で発表されました。
このお話からは、やなせが父親と死別し、母親とも離れて暮らし、養父母に育てられたこととの関りが伺えます。
これらやなせの人生に影響を与えた出来事は、種族を超えた無償の「母子愛」、そして無垢な死という物語に帰結し、発表から60年を経た現在でも多くの人に読みつがれています。
幼少期を弟・千尋への鎮魂歌「おとうとものがたり」、今年発見された三越宣伝部時代に描いた「文学座公演ポスター」、そして漫画、コンサート、絵本、演劇と多角的に展開した「やさしいライオン」から、やなせたかしと3びきのライオンの物語をお楽しみください。
第1章 「おとうとものがたり」
おとうと・千尋への鎮魂歌「おとうとものがたり」全18篇を挿絵原画と共に展示します。
幼少期に暮らした伯父の家にあったライオン像
《おとうとものがたり》(表紙)
第2章 三越宣伝部時代~NHK「まんが学校」
三越宣伝部時代のエピソードとやなせが子ども向けの漫画・絵本を制作するきっかけとなったNHKの出演番組「まんが学校」について紹介します。
第3章 「やさしいライオン」
「やさしいライオン」は1960年代から2010年代にかけて、スライドショーミュージカル、映画、絵本、紙芝居、演劇と多角的に展開しました。
今展では、全14バージョンの「やさしいライオン」を一堂に紹介します。
《かみしばい「やさしいライオン」》